秋田 剛准教授
研究室
(キーワード:計算力学、宇宙機構造工学、膜面構造、有限要素法)
当研究室では,超軽量の膜面宇宙構造や,超高精度の宇宙アンテナ構造を実現するための,数値解析技術に関する研究を行っています.宇宙機の使用環境は,「無重力」,「高真空」,そして多くの場合「無人」です.「無重力」ということで,薄膜のような非常に柔軟な部材を構造要素として用いることができますが,重力のある地上で精密な検証試験を行うことが困難になります.このとき,数値解析が重要な役割を果たします.また「高真空」ということで,宇宙空間は地上と異なり空気による対流がなく,太陽熱と宇宙空間への放射による厳しい熱環境となります.宇宙機設計では,熱変形の予測が非常に重要になります.「無人」での運用を前提とするため,事前に地上で宇宙機を試験・検証を行う必要があり,宇宙空間での手直しは困難です.近年の宇宙開発の発展に伴い,超軽量膜面宇宙構造や超高精度宇宙アンテナ構造のような地上での検証試験が困難な先進的宇宙機が計画されるようになっていますが,当研究室では,実際の先進的宇宙機設計に役立つ数値解析技術の開発を目標としています.以下にこれまで行ってきたこと,研究テーマの例を示します.
(1)超軽量膜面宇宙構造に関連した研究
宇宙機は,ロケット先端の小さなフェアリングに収納されて宇宙空間まで運搬されます.宇宙機を大型化しようと考えた場合,ロケットの中ではコンパクトに折りたたまれ,宇宙空間で大きく展開する構造を考える必要があります.また,推力の制限から,重量も可能な限り小さくする必要があります.構造部材に収納性に優れ超軽量な膜材を利用することで,これまでにない大型の宇宙機を構築することができます.このような宇宙機の実現のために,「しわを含む膜の静的・動的解析やしわの低減設計に関連した研究(図1,2)」,「膜を効率的に展開し,形状を維持するインフレ-タブル膜構造の解析・設計技術に関する研究(図3~6)」を行っています.
図1 頂点に引張荷重を受ける矩形膜のしわ低減設計(1/4モデルの斜辺形状を設計)
図2 実験により形状評価
図3 片持ちインフレータブルビームの変形解析
図4 実験による荷重・変位挙動の解明
図5 葉の葉脈を模したインフレータブルチューブ構造の形態設計例(面外剛性を目的関数に葉脈形態を設計)
図6 葉脈を模したインフレータブルチューブ構造の試作例
(2)超高精度宇宙アンテナ構造に関連した研究
通信用の衛星や電波天文衛星(天体が放射する電波の観測を目的とした衛星)では,大型で軽量な宇宙アンテナが必要とされます.現在,世界の宇宙機関では,宇宙アンテナ構造として,多数のケーブルを使ってパラボラ面を形成する構造(図7)や,ケーブルとリブを組み合わせてパラボラ面を形成する構造(図8)が多く用いられています.近年,通信性能や観測性能の高度化要求から,アンテナパラボラ面の超高精度化が求められています(例えば,電波天文衛星で43GHz帯の電波を観測する場合,約10mの開口径に対して0.4mmRMSの精度が要求されます).このような次世代の超高精度宇宙アンテナの設計において,運用する宇宙環境と大きく異なる地上環境で,いかに試験・検証を行うかが大きな課題になっています.そこで,数値解析技術を高精度化することで,地上の試験・検証データから宇宙空間での挙動を高精度に予測する技術を開発し,超高精度宇宙アンテナの実現に貢献することを目指しています.具体的なテーマとしては,以下の項目を行っています.
- (A) リブアンテナ構造の機構部の数値解析予測に関する研究(図9)
- (B) 衛星軌道上での高精度熱変形予測に関する研究(図10,11)
- (C) 数値解析結果と実験データを逐次融合するデータ同化に関する研究
図7 ケーブルネットワーク型アンテナ
図8 ケーブル・リブ型アンテナ
図9 リブアンテナの展開挙動
図10 衛星軌道
図11 熱変形予測