原 祥太郎准教授
研究室の概要
(キーワード:材料強度,計算材料科学,エネルギー材料,固体酸化物形燃料電池)
低炭素社会を実現するためには,固体酸化物形燃料電池といった次世代型高効率エネルギーシステムの高性能設計が不可欠となります.しかしながら,こうしたシステムの多くは作動温度が高く,材料内のメゾ組織やナノ欠陥の挙動が極めて複雑となり,結果として信頼性や耐久性といった観点で未だ課題が山積しています.そこで本研究室では,ナノからマクロスケールに至る計算材料科学的アプローチを駆使しながら,高温作動システムに内在する材料強度課題の現象解明や性能予測モデリング技術の開発に取り組んでいます.
研究テーマ
1. 固体酸化物形燃料電池電極のメゾ構造制御
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は,次世代発電技術として注目を集める一方,高温かつ長時間運用に向けた耐久性確保が大きな課題となっています.特にSOFCの燃料極は,NiとYSZ粒子が混合した多孔状の複雑な微視構造をしており,高温運転時の構造変化と電気化学的性能とが密接に関係することが知られています.そこで,電極多孔構造の時間変化予測を目的とし,サブミクロンオーダーの結晶粒を基本サイズとしたモンテカルロ法シミュレーターを開発しています(図1).本解析技術により,電極の劣化機構を明らかにするとともに,新しい構造変化抑制手法の提案を目指します.
図1: (左)燃料極微細構造の模式図,(右)燃料極の運転中の構造時間発展解析
2. 高温焼結プロセスにおけるメゾ構造発展予測
高温焼結プロセスは,セラミックス材料の基本製造プロセスであり,焼結体のマクロな機械的・電気的特性は,焼結体のメゾスケール構造と強く関連します.しかしながら,焼結中のメゾスケール構造の時間変化は,初期粉末特性や焼結レシピなどに依存する非常に複雑な現象であるため,未だ十分に体系化されていません.そこで本研究では,焼結中の構造時間発展を予測できる解析技術を開発し,固体酸化物形燃料電池の製造焼結プロセス制御等に適用しています.本研究は,他大学と連携を図りながら進めており,三次元実構造復元技術や焼結実験との比較を行うことで,予測技術の更なる高度化を図っています(図2).
図2: 高温焼結プロセス中の微細構造変化
3. 固体材料中のナノ欠陥挙動解明
固体材料の物理的特性や機械的特性を明らかにするためには,しばしば材料に内在しているナノスケールの欠陥挙動を理解することが不可欠となります.しかしながら一方で,小さなスケールの材料欠陥の運動を実験的に高精度に捉えることは多大なコストと労力を要するのが現状です.そこで本研究では,分子動力学法を代表とする分子計算を活用し,計算機上でミクロな欠陥の動的な振る舞いを提示する基礎技術を開発しています.これらの技術を例えば,電解質材料内の原子空孔拡散特性予測,耐熱合金材料中の転位挙動の把握,界面剥離プロセスの理解などに適用しています(図3).
図3: 分子計算によるミクロ欠陥挙動解析