長瀬 亮教授
研究分野:精密機械学
(キーワード:光ファイバー・機構デバイス)
1.概要
機構デバイスにおける微小領域の変形や運動の精密な測定,解析を対象とする.
部材の微小な変形や温度変化,振動等を離れたところで検出することができれば,構造体の劣化診断,地震の早期検知,医療分野など,様々な領域での応用が見込める.一方,通信用光部品における光素子と光ファイバの位置決め,光ファイバ同士の接続等,取り扱い中の外力による部材の変形量(数10μm)が,必要とされる位置決め精度(1μm 以下)を大きく上回る場合がある.このような領域においても微小領域の変形を高精度に解析する必要があるが,これまでは主に経験則に基づいており,体系的な設計手法は確立していない.
当研究室では光ファイバを用いた局所的な物理量の微小変化の測定法や,機械要素における微小領域の挙動の解析法について探求している.
2.個別テーマ
(1) 光ファイバを用いた局所的物理量の精密計測
図1に示すように光ファイバ端面に誘電体多層膜フィルタを形成し,他端から光信号を入射すると,特定の波長のみ反射させることができる.この多層膜フィルタに温度変化,圧力,振動等の外乱を与えると反射する光の波長が僅かに変化する.
図1 光ファイバを用いた計測の原理
本原理による測定法は以下の特徴を有する.
- 光の波長オーダの変化を検出できるため高精度
- 機構部品と組み合わせることにより様々な物理量を計測可能
- 検出部および信号伝送部に電気信号を通さないためノイズに強い
- 同時に多地点の計測が可能
- 検出部を小型化できるため,応用範囲が広い
本測定法の応用分野に関し,以下に例を挙げる.
- 橋梁等構造物の劣化診断
- 大深度地震計の設置による原子力発電所の安全対策
- 局所的精密体温計測による医療応用
- 水中音響計測 ...など
本研究では様々な応用分野を念頭に検出部の機構を考え,本測定法の可能性を追求することを目的とする.
(2) 通信用光部品における微小領域の変形解析
光通信ネットワークに使われているシングルモード光ファイバは信号を伝搬するコアの直径が10μm程度であり,光ファイバ同士の接続や光素子との結合にはサブ・ミクロンの位置決め精度が要求される.外力や温度変化により発生する部材の変形に対してこの精度を維持するためには,部材の局所的な変形を精密に解析する必要がある.例えば図2に示す光コネクタの接続点においては,フェルールとファイバの位置ずれを端面の弾性変形により吸収する仕組みが使われているが,接続する双方のフェルールの材料が異なる場合や端面形状が非対称な場合の変形や,双方のフェルールを整列する割りスリーブとの接触状態など,未解決な問題が多い.
図2 光コネクタ接続点における変形
本研究ではこれら局所的な変形を詳しく解析するとともに様々な条件下で精密な実験を行い,体系的な光部品の設計手法の提案と標準化への貢献を通して光通信ネットワークのさらなる信頼性向上を目指す.