緒方 隆志教授
緒方研究室
(キーワード:耐熱金属材料,高温強度特性,損傷機構解明,余寿命評価)
金属材料は,飛行機,鉄塔,ガスタービンなど多くの機器・構造物で使用されています.これらの機器では,使用中に一定の外力や繰返し外力を受けることにより,損傷が進行・拡大し,その結果破損(寿命)に至ることがあります.このような使用中の機器の突然の破損を防ぐためには,損傷が進行するメカニズムを明らかにし,それを適切にモデリングすることにより精度の高い寿命評価法を開発することが重要です.当研究室では,金属材料の強度特性(引張強度,疲労強度,クリープ強度など)を実験によって理解したり,使用中に進行する損傷のメカニズムを実験・観察によって解明する研究に取組んでいます.さらに,得られた結果に基づいて損傷をモデリングし,機器・構造物の寿命を正確に予測する手法を開発します.これを機器の設計や保守管理に適用することで,突然の破損を防ぎ,使用中の安全確保に貢献することを目指しています.
具体的な研究内容について以下に記載します.
1)金属材料の強度特性評価
金属材料を対象に,硬さ試験,引張試験などの種々の材料試験を実施し,硬さ,降伏点,引張強さ,靱性など設計等に必要となる基本的な強度特性を把握します.硬さと降伏点や引張強さの関係が明らかになれば,硬さ測定によって簡単に引張強さを推定することができます.また,実際の機器は使用中に繰返し外力を受けることにより疲労損傷が進行します.そこで,金属材料を対象に,疲労試験を実施し,試験中の材料の表面状態の変化を観察し,疲労損傷過程と疲労寿命を明らかにします.疲労試験により破損した試験片の破面観察等を行い,破損原因を究明するとともに,疲労寿命評価法の精度向上を図ります.
疲労損傷進行の模式図
疲労破損した試験片の例
破面に形成されたストライエーションの例
図1 金属材料の疲労損傷メカニズムと破面形態
2)耐熱金属材料の高温損傷メカニズムの解明
ボイラや蒸気タービンなどの火力発電用高温機器は,運用中に内圧や遠心力などの外力を受けると,材料内部でクリープ損傷が進行します.クリープ損傷の特徴は,結晶粒界に数ミクロン程度の微小な空孔(ボイド)が発生し,時間をかけて成長することです.このボイドの成長メカニズムを解明し, ボイドの発生・成長をモデル化して,コンピューターでボイドの発生・成長を予測するシミュレーション手法を研究しています.これにより,クリープ損傷の正確な予測が可能になります.
クリープ変形およびクリープ損傷進行の模式図
材料で観察されたボイド
シミュレーションで予測したボイド
図2 クリープボイド成長シミュレーション手法に関する研究
3)多軸応力下の疲労寿命評価法
実際の機器は,使用中に1方向からだけでなく,2方向,3方向から繰返し外力を受けて疲労損傷が進行します.機器の疲労寿命を正確に予測するには,多軸応力下で疲労試験を実施し,その結果に基づいて寿命評価法を開発する必要があります.これまでに,引張圧縮-ねじり疲労試験や2軸応力下の疲労試験を実施し,独自の疲労寿命評価法を提案しました.今後は,多軸応力下で実施された疲労試験データを文献等で調査し,疲労破損に及ぼす多軸応力の影響を明らかにします.さらに,既提案寿命評価法の適用性を検討し,その結果に基づいて評価法を改良します.
2軸疲労試験片の例
多軸疲労寿命パラメータの導出
提案評価法による疲労寿命の整理
図3 多軸応力下の疲労寿命評価法に関する研究