鈴木 浩治教授
研究室
(キーワード:軽構造材料、複合材料、FRP、木質材料、生体骨強度)
①スマートマテリアル・ストラクチャの研究開発
あたかも高等生物の神経のような高感度センサ,筋肉のような高出力アクチュエータ,そして頭脳のような高性能 IC チップを自らに備え,スペースデブリ(宇宙塵)等の異物の衝突など予期せぬ外らんに遭遇してもそれにより生ずる異常応答を速やかに鎮めて己に課された任務を遂行することのできる,いわゆる知的材料・構造体(スマートマテリアル・ストラクチャ)は,非常に高い信頼性が要求される人工衛星や宇宙往還機・宇宙ステーションなどの航空宇宙分野だけに止まらず,車両衝突安全性の確保や経年コンクリート構造物劣化のモニタリングとその抑制など,より広範な分野への適用も期待される次世代の構造材料技術である.本研究では,CFRP積層材を知的材料・構造体へと進化させるための基盤技術として,粘弾性インターレイヤ内部に層間はく離を導入することを試みる.そしてその振動・減衰特性を実験的に評価し,層間はく離の無い場合と比較するとともに,超高速カメラにより振動現象を実観察しその減衰能向上メカニズムの解明を試みる.さらに,既に開発済みの多層・高次変形有限要素法固有振動解析とモードひずみエネルギ法とを組合わせた制振CFRP積層材用の振動・減衰特性評価プログラムを解析エンジンにした,遺伝的アルゴリズム(GA)に基づく最適化設計プログラムを新規開発する.そしてその最適化プログラムを用いて重量を制約条件にしながら最も高い制振性能を発現させるための粘弾性インターレイヤと層間はく離の挿入・組み合わせ方法を数値的に見出す.最後に,見出された供試体を実際に作成し,実験にてそのダンピング・パフォーマンスを実証する.
図1 研究開発構想図
②天然植物繊維の内部組織観察とその力学特性評価
近年のエコ・マテリアル事業化の機運にも後押しされ,石油代替効果が著しく,また省エネルギーやCO2削減効果も期待できる天然植物繊維強化生分解性プラスチック(天然植物-FRbP)を,自動車などのある程度の強度を要する構造部材へ適用する研究開発がにわかに活気づいている.ところで,その品質が産地や採取方法等に依存する植物繊維にて強化され,さらに繊維と樹脂との複合化の相性にも限界があり,また,成形加工技術も未熟である天然植物-FRbPの力学・強度特性は大変大きくばらつく.従って,この天然植物-FRbPの研究開発は,まずは基礎に立ち戻り,その形状・形態や力学・強度特性を統計的手法により徹底的に定量評価・解析することに端を発すべきである.また,天然植物-FRbPに対するデータベースと解析・シミュレーションプログラムから構成される強度信頼性評価・設計支援システム開発の必要性も大きい.本研究では,ケナフ繊維強化ポリ乳酸(ケナフ-FRPLA)を事例として,天然植物繊維で強化した生分解性プラスチック(天然植物-FRbP)の構成素材,複合材および成形品の各段階での形状・形態や力学・強度特性を,観察および試験により統計的に定量評価・解析する.さらに,得られた結果を格納する統計データベース群,および有限要素法とモンテカルロ法を組み合わせた確率論的解析・シミュレーションプログラム群をそれぞれ開発し,そして,それらを統合した天然植物-FRbPのマルチスケールな強度信頼性評価・設計支援システムを構築する.さらに,実用に耐え得る強度信頼性を有するケナフ-FRPLAの成形手法の提案とその試作も実施する.本テーマ遂行により,この"環境に優しい"生分解性構造材の実用化に決定的な弾みがつくであろう.
図2 研究開発構想図